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大阪地方裁判所 昭和54年(行ウ)34号 判決 1980年6月27日

原告

三宅妙子

訴訟代理人

仲田晋

鈴木堯博

被告

国税不服審判所長

岡田辰雄

訴訟代理人

兵頭厚子

主文

被告が昭和五三年三月一四日付でした、原告の昭和四九年分所得税について下関税務署長によつてされた更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分に対する原告の審査請求を棄却する旨の裁決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

主文同旨の判決。

二  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二  当事者の主張

一  原告の請求原因

(一)(1)  原告は、法定期限内に、訴外下関税務署長に対し、昭和四九年分の所得税について、分離長期譲渡所得金額を金一、九五五万〇、三〇〇円、税額を金三八六万三、四〇〇円として確定申告をしたところ、下関税務署長から昭和五一年九月二九日付で、分離短期譲渡所得金額を金二、二六九万七、八二〇円、税額を金九六五万七、四〇〇円とする更正処分及び過少申告加算税金二八万九、七〇〇円の賦課決定処分を受けた。

原告は、同年一一月二〇日、同署長に対し、異議申立てをしたところ、同署長は、昭和五二年二月八日付で、右異議申立てを棄却する旨の決定をした。

(2)  原告は、昭和五二年三月五日、被告に対し、審査請求をしたところ、被告は、昭和五三年三月一四日付で、右審査請求を棄却する旨の裁決(以下本件裁決という)をし、同月二〇日以降、原告にその裁決書謄本を送達した。<以下、事実省略>

理由

一課税の経緯について

請求原因(一)の事実は、当事者間に争いがない。

二本件裁決が適法かどうかについて

(一)  原告が原処分庁である下関税務署長から提出された書類の閲覧請求をしたところ、右閲覧が許されなかつたことは当事者間に争いがない。

(二)  <証拠>によると、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(1)  被告は、昭和五二年三月七日、原告が郵送によつて提出した同月五日付審査請求書を受理し、この審査請求が形式的要件を具備しているかどうかの審査をしたうえ、下関税務署長あてに審査請求書の副本を送付した。

同署長は、答弁書を提出したので、被告は、右審査請求事件の調査及び審理を行わせるため、担当審判官一名と参加審判官二名を指定したのち、原告に対し、右答弁書の副本を送付するとともに、同年四月七日付で担当審判官指定の通知をした。

被告は、その後、担当審判官及び参加審判官を人事異動のため変更したので、同年七月二六日付で、原告に対し担当審判官変更の通知をした。

(2)  担当審判官及び参加審判官の合議体は、右審査請求事件について調査及び審査を行ない、合議体としての結論を出すに熟したので、同年一一月二五日、議決をした。

(3)  被告は、昭和五三年三月一四日、右議決に基づいて本件裁決をし、同月二〇日、その裁決書謄本を原告あてに郵便で発送したところ、同謄本は、その後、原告に送達された。

(4)  原告は、同月一三日、同月一一日付の閲覧請求書を郵便で発送したところ、被告は、同月一四日、これを受理した。

この閲覧請求書には、名宛人として「広島国税不服審判所長」との記載があり、また、「国税通則法第九六条二項に基き原処分庁から提出された書類、その他の物件の閲覧を求めます。」との記載がある。

(5)  被告は、右閲覧請求が不適法であると判断し、同月二二日付で、原告に対し、右閲覧請求には応じられない旨を書面で通知した。

(三)  被告は、原告の右閲覧請求は広島国税不服審判所長に対してされた点で不適法であるから、被告が右閲覧を許さなかつたことに手続上の瑕疵はないと主張しているので判断する。

(1) 通則法九六条二項は、「審査請求人は、担当審判官に対し、原処分庁から提出された書類その他の物件の閲覧を求めることができる。」と規定しているところ、前記認定の事実によると、原告の閲覧請求書には名宛人として広島国税不服審判所長が記載されている。

(2) しかし、前記認定のとおり、同請求書には「国税通則法第九六条二項に基き原処分庁から提出された書類、その他の物件の閲覧を求めます。」との記載があり、この記載内容及び広島国税不服審判所長は、通則法七八条四項、一一三条、同法施行令三八条にいう「首席国税審判官」であつて、本件において担当審判官を指定したものであり、行政機構上も、当該担当審判官の所属する庁の所長にあたることにかんがみると、原告の閲覧請求は、客観的に通則法九六条二項に基づく担当審判官に対する閲覧請求の趣旨であるといわなければならない。

原告は、法の不知から広島国税不服審判所長に対し閲覧請求をすれば足りると考えたのであり、その閲覧請求書が同不服審判所で受理された以上、同所は、部内的に担当審判官に同書を回付し、後日この誤りを補正させれば、それですむことである。

そうしてみると、被告の主張する理由は、被告か右閲覧請求を拒否したことを正当づける理由にはならない。

(四)  次に、被告は、通則法九六条二項に基づく閲覧請求は担当審判官及び参加審判官の合議体の議決前にしなければならないと主張しており、原告が右議決後に閲覧請求をしたことは前記認定のとおりである。

しかし、審査請求人は、裁決書謄本が発送されるまでは通則九六条二項に基づく閲覧請求をすることができると解するのが相当である。その理由は、次のとおりである。

(1) 閲覧請求をすることができる時期については通則法上の明文の定めがない。

(2) 審査請求人が右議決後であつても主張を追加又は変更すれば、担当審判官としては、さらに調査及び審理をし、改めて議決をしなければならなくなる。したがつて、右議決は、絶対的なものではない。

(3) 右合議体の議決がされたことを審査請求人に通知すべき旨を定めた規定はなく、審査請求人が右議決がされたことを知る機会は法律上保障されていない。

(4) 審査請求手続には、訴訟手続における弁論終結のような手続はない。

(5) 審査請求手続は、裁決書謄本が審査請求人に対し発送された段階で対外的に完結したものとみられる。もつとも、通則法九六条二項では、閲覧請求の相手方は担当審判官である旨が定められているが、前記のとおり、担当審判官は、右議決後もさらに調査及び審理をすることがあるわけであるから、この規定を根拠に右議決前に閲覧請求をすべきであると解することは無理である。

審査請求人の書類の閲覧請求権は、審査請求人にとつてもつとも重要な権利であることに想到したとき、担当審判官としては、可能な限り閲覧請求権を尊重するよう事務処理をすべきことは、いうまでもない。

被告のとつた処置は、審査請求人の基本的な利益を、外部的に窺知できない内部的議決のあつたことを持ち出して不当に奪うものであり、当裁判所は、到底賛成できない。

原告は、本件裁決の裁決書謄本が発送された昭和五三年三月二〇日よりも前である同月一四日閲覧請求をしたのであるから、同請求は、適法である。

(五)  被告は、原告は本件裁決成立後の送達の段階で新たな主張や資料の追加をすることもなく閲覧請求をしたもので、それまでの期間を漫然と徒過したのであるから、被告がこれを拒否したことには通則法九六条二項の「正当な理由」があると主張している。

しかし、同項の「正当な理由」とは、第三者の個人的秘密又は行政上の機密を保持する必要がある場合や審査請求人の閲覧請求が権利の濫用にわたるような場合をいい、本件のような審査請求人が裁決成立後の送達の段階で閲覧請求をした場合を含まないと解するのが相当である。そして、審査請求人がそれ以前に閲覧請求をしたことがなかつたとしても、この結論に変わりはない。

被告は、審査請求人が送達の段階で単に閲覧請求だけをした場合、閲覧請求を許容し、あるいは再審理を行なうべき必要性はないと主張しているが、審査請求人が閲覧した資料をもとにして主張や資料を提出することもあり得るわけであるから、その必要性がないなどとは到底いうことができない。

(六)  まとめ

以上の次第で、被告が原告の閲覧請求に応じなかつたことは違法であり、この違法な手続に基づいてされた本件裁決は違法であることに帰着するから、取消しを免れないといわなければならない。

三むすび

原告の本件請求は、理由があるから認容することとし、行訴法七条、民訴法八九条に従い、主文のとおり判決する。

(古崎慶長 寺田逸郎 小佐田潔)

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